《リゴレット》ドラマツルグの伊藤薫です。
「ドラマツルグ2」は最初に配布した資料の一つで、構造がメインだった「ドラマツルグ」と比較してより具体的なトピックを取り扱っています。重複も多いとは思いますが、考察から実践へと比重を移して、実際の制作者の目線を意識した資料です。
制作とドラマツルグの関係性の整理
オペラは歌詞だけ取り出すと意外と短いもので、物語は観客の共通理解と伝統的な解釈のもとに成り立っています。歌詞や音楽を改変する事は不可能ですが、総合芸術であるオペラにおいては、視覚的な表現によってその伝え方を調整し、繊細な文脈を加えていくことができます。大道具は象徴的なシーンを舞台の構図を通して伝えること、衣装は各キャラクターの性格と社会的な立場を表すこと、照明は重要な場面とさらにその中で重要な要素を抽出すること、字幕は訳出すべき言葉を省略せずに伝えること、とそれぞれが全体の表現を後押しすることができます。すなわち、物語の背景となる世界の表現、そこで展開される人間のあり様は、個々の役者や演技部門のみによって達成されるものではありません。オペラではこの傾向は演劇より顕著であり、非常に困難な作業となります。公演を通して我々の物語を積み上げるため、ドラマツルグとして各部門と協働したいと思っています。
人物と台詞
あらすじだけではなく、結局台詞を読まないと登場人物や物語に触れることができないので、ピックアップしました。
リゴレット:世界からの排斥、人間への憎悪、世界への反乱
O uomini! O natura! Vil schellerato mi faceste voi!
人間どもめ!造化の神め!うぬらが俺を卑劣な悪党にしたのだ!Quest’è un buffone, ed un potente è questo! Ei sta sotto I miei piedi!
こちらは道化師、してこちらは権勢様!それがわしの足下にいる!奴さ!ああ嬉しや!
マントヴァ公:絶対的な権力、欲望の定まらない行き先、迷い続ける子供
Colei sì pura, al cui modesto sguardo quasi spinto a virtù talor mi credo!
あのように清らかな娘、そのつつましい目差しに、時として徳行に導かれるかに思われるあの娘は!La donna è mobile qual piuma al vento, muta d’accento e di pensiero.
女は気まぐれ、風に舞う羽のように、言うこと変わり、思いもまた。
ジルダ:若く純粋な愛情、他者への理解、許しをもたらす声
Caro nome che il mio cor festi plimo palpitar.
慕わしい名よ、私の心を初めてときめかせた名よ。Perdonate… a noi pure una voce di perdono dal Cielo verrà.
許してさしあげて…そしたらわたしたちにもまた、天からお許しの声が届くことでしょう。
出典:『オペラ対訳ライブラリー ヴェルディ リゴレット』 訳:小瀬村幸子 出版:音楽之友社
(世界観へつづく)
文責:伊藤薫