「 物語や心情を理解することで、オーケストラが出すべき音に対する想像力が豊かになります 」
はまぷろは、ピアノ伴奏ではなくオーケストラによる公演づくりをしています。今回は、音楽の要となるオーケストラから、弦楽器トップ奏者5名にお話を伺います。(聞き手&編集:吉野良祐、竹中梓)
中谷奏/坂江あかね/竹中梓/小林賢太郎/片桐沙弥(弦楽器トップ奏者)
第一回公演〈フィガロの結婚〉本番前日練習風景
撮影:K.yahagi
オペラの第一印象
吉野: 今回は、〈愛の妙薬〉で弦トップを務める中谷(1st.Vn.)、坂江(2nd.Vn.)、竹中(Va.)、小林(Vc.)、片桐(Cb.)の5人にお話を伺います。
はまぷろオーケストラには様々な管弦楽団からメンバーが集まっていて、普段は交響曲など声楽のない曲に取り組んでいる人が多いです。オペラに取り組んで感じていること、発見や驚いたことなど教えてください。
前列左から、中谷奏、坂江あかね、竹中梓、小林賢太郎
撮影:奥山茂亮
片桐(Cb.): 前回の〈フィガロの結婚〉からトップとして参加しています。はじめてキャストの方々との練習をしたとき、声量に驚いてつい振り向いてしまいました。
中谷(1st.): ちゃんと弾け~!って怒られるかもしれないけど、演奏中ちらちら見ちゃうよね。演技がつくとなおさら。
左:片桐沙弥
撮影:木村護
小林(Vc.): 自分もあのくらい歌えるようになりたい…。オペラは声楽が入ることもあって、シンフォニーに比べて扱わないといけない情報量が多いです。譜面に並ぶ音はシンプルですが、譜面の情報量では圧倒的に足りない。スコアを研究したり自分で歌のパートを発音したりしてそうした情報を補っています。
吉野: 確かに、パート譜だけではストーリーやダイナミクスはフォローしにくいですよね。オペラだと、慣例的なテンポ変化なんかも多くて。そういう約束事のつみかさねが、オペラという膨大なアウトプットには不可欠です。
小林(Vc.): そうですね。もちろん、楽譜をきちんと読むことが一番ですが、演奏の歴史もまたひとつの大事な情報源になるので、色々と音源を聞き比べたりもしています。
坂江(2nd.): コバケンすごい…。私なんかはじめ何もわからなくて、楽譜に書いてあるAriaやRecitativoの意味をググるところからはじめました(笑)。
撮影:奥山茂亮
竹中(Va.): 確かにシンフォニーだと見ない記譜や用語も多いよね。レチタティーヴォなんかはオケの楽譜にも歌詞が書いてあって、指揮と歌詞の両方を見ながら弾いたりするし。歌手や指揮者の呼吸に合わせて演奏するという点は、基本的にテンポ通りに音楽が進むオケ曲との大きな違いですね。
片桐(Cb.): バスの拍打ちも、オケ全体を引っ張るだけではなく、ソリストである歌手を導いて音楽を進めていく役割があると思っています。
小林(Vc.): コンチェルトだったらソリストはだいたい1人ですが、オペラはコンチェルトを同時にいくつもやってるような感覚で…。常にアンサンブルのアンテナをビンビンに立ててます。

コバケンこと小林賢太郎(Vc.)。数々の学生オケでトップ奏者を務める。寝癖がチャームポイント(?)
中谷(1st.): コバケン、髪の毛アトムだもんね。
吉野: この髪型はアンテナだったのか…。
物語との関係
吉野: ある物語や心情を表現するために、オペラでは様々な作曲技法やオーケストレーションが使われます。作曲の歴史がオペラによって前進してきたような面もある。そのような意味で、物語とオケの演奏とはどのように関わっていると感じますか?
小林(Vc.): 登場人物や物語を理解すると音楽の方向性や理解が定まりやすいですね。私のチェロの先生がかつて、「どんな技術を兼ね備えていても最終的に出せる音は演奏者の想像力や執念によって決まる」と教えてくださったのですが、まさにそういう現場を目の当たりにしている気分です。
坂江(2nd.): 登場人物の関係性がパート同士の音の関係になっていることもありますね。たとえば、あるパートが「伯爵の怒り」をやっていて別のパートが「フィガロたちの親子愛の確認」をやっている、みたいな感じです。それを知っているとだいぶ心持ちが変わります。
撮影:奥山茂亮
竹中(Va.): はまぷろだと、立ち稽古に弦トップ奏者が加わるという珍しい練習形態も採用していて、舞台上とオケの相互理解を深める工夫をしています。
中谷(1st.): 加えて、指揮の濱本さんが練習中にこうした解説を丁寧にしてくださるので、演奏にも役立てますし、あと、知れば知るほど舞台上のことが気になってしょうがなくなる(笑)。
小林(Vc.): 本当は良くないんですけど、つい、休符のときとかにキョロキョロしちゃって…。
撮影:木村護
中谷(1st.): コバケン、目が合うといつもニヤニヤしてるよね(笑)。
吉野: コバケンさっきからめっちゃ良いこと言ってるのに、髪型アトムでニヤニヤしてる不審者になってるな…。
指揮者について
吉野: コンミスの中谷さんは、これまでも濱本さんのもとで何度かコンミスを経験されているそうですが、指揮者の右腕的存在である中谷さんからみてオペラを振るときの濱本さんはどうですか?
撮影:奥山茂亮
中谷(1st.): 指揮者から見るとコンマスは左腕側なんですけどね(笑)。それはさておき、特にオペラのときは楽しそうに感じます。オーケストラだけの練習のときは、歌手の代わりにめっちゃいいテノールボイスで歌ってくれるし(笑)。
片桐(Cb.): オペラ独特のアンサンブルが上手くいかないときなどは、どうして合わないのかを一緒に言語化してくださいます。
中谷(1st.): たしかに、自分がオケにうまく指示できなくてもどかしいときなどは、「こういうことが言いたいんでしょ」と導いてくださいますね。これは本人には内緒ですけど、オペラだと褒めてくれることが多くて、普段の濱本さんより好きです(笑)。
吉野: 濱本さん、コラム読んでます、って言ってましたよ。
〈愛の妙薬〉にむけて
吉野: 最後に、次回公演〈愛の妙薬〉へ向けての意気込みなどをお願いします。
片桐(Cb.): きちんと全幕通せる集中力と体力を保ちたいと思います。前回のフィガロでは、本番前にリポビタンDで乾杯したのですが、それでも本番中にヘトヘトになってしまって…。今回は各幕1本、それから帰宅するのに1本、合計3本用意して臨みたいと思います。
小林(Vc.): 私自身も「愛の妙薬」のストーリーに魅了されながら、日々練習に励んでいます。当日は観に来てくださるお客様と一緒に舞台を楽しみつつ、音楽面から花を添えられるように頑張りたいと思います。
竹中(Va.): オペラのオケは、歌の”ために”演奏をするだけの伴奏ではなく、オペラという総合芸術における音楽の要なんだと思っています。「愛の妙薬」をこんなに練習してるオケはないと思いますので(笑)。ぜひ、私たちの音楽もお楽しみください。
坂江(2nd.): 前回オペラに初めて参加してみて、音楽面だけでなくストーリーや演技・舞台装置等々、オーケストラだけやっていては想像もつかない部分までこだわりぬかれている事を知り、私自身世界がぐっと広がったように感じました。その奥深さをお客様にも感じて頂ける公演にできたらなと思うので、少しでもお力添え出来るよう頑張ります。
中谷(1st.): 物心ついた時から何よりも好きだったオペラに 今自分がオーケストラの一員として関われていることがとっても幸せです。この楽しさをお客様とも共有できるようにがんばります。
吉野: 皆さん、どうもありがとうございました。