「はまぷろに関わるなかで、スタッフの皆さん、オケの皆さん、歌い手の皆さん、創り上げることに傾ける熱量は変わらないということを再確認しました。」

はまぷろGiocoso2018歌劇 ≪愛の妙薬≫(2018年9月)から早1か月。今回のインタビューでは、先の公演でアディーナ役を演じた吉田結衣さんと、ドゥルカマーラ役を演じた藤巻希美彦さんにお話を伺いました。(聞き手:吉野良祐・安田ひとみ/編集:竹中梓)

 

藤巻希美彦・吉田結衣(歌手)

写真左:藤巻希美彦(ドゥルカマーラ)、右:吉田結衣(アディーナ)
撮影:奥山茂亮

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舞台づくりの「はまぷろらしさ」

安田: まずは藤巻さん吉田さん、はまぷろGiocoso2018歌劇《愛の妙薬》お疲れさまでした。本番からもう1カ月以上経っているとは、月日の流れは早いですね…。
さて、キャストのお二人は、はまぷろの初回公演≪フィガロの結婚≫(2018年3月)から2演目続けてのご出演です。初回公演のお話や、はまぷろとの出会いからお聞かせください。

 

藤巻: 僕がはまぷろに携わるきっかけとなったのは、はまぷろの旗揚げ公演≪フィガロの結婚≫でフィガロ役にお声がけいただいたことですね。あの公演は個人的に非常に感慨深かったです。指揮者の濱本さんとは学生時代から何度もオペラでご一緒していますが、時には指揮者にも台詞や演技を強いるような型破りな演出もありました。濱本さんが銃で人を撃って、ダイナマイトで爆死して、本気でダンスを踊るなんて公演もありました(笑)そんなエキセントリックな時代を振り返りつつ取り組んだ≪フィガロ≫でした。

 

吉野: 濱本さん爆死…。はまぷろでもそのうち採用ですかね…(笑)

 

藤巻: いいと思います(笑)

前回公演《フィガロの結婚》 左:藤巻希美彦(フィガロ)、右:若狭彩香(スザンナ)(撮影:K.yahagi)

藤巻: はまぷろに関わるなかで、スタッフの皆さん、オケの皆さん、歌い手の皆さん、創り上げることに傾ける熱量は変わらないということを再確認しました。あと、はまぷろの皆さんはバランス感覚が良いんですよね。この業界って、偏った人間のパラレルワールドみたいなところがありますから…。
とにもかくにも、僕にとっても素晴らしい公演になりました。特に皆さんから得たものが大きかったし、浴びたものが多かったです。

 

吉野: なるほど、パラレルワールドですか。

 

新しいアディーナ像のために

安田: オペラ作りは音楽を専門的に学ばれてきた皆さんの技術や経験なしには成り立ちませんが、はまぷろという場には、プロや音大生だけではない様々な人々が集まるからこそ生み出せる価値があるように思います。 吉田さんはいかがですか?

 

吉田: 私は《フィガロ》のときには合唱(花娘役)で出演して、そして次の《愛の妙薬》ではアディーナ役でお声がけいただいたんですけれど、どちらの公演も本当に刺激的で、様々なバックグラウンドの方々が混ざりあって一つのオペラを作り上げていく過程が魅力的でした。稽古も、演者が演出や制作スタッフの皆さんに気軽に意見を言えるフラットな雰囲気でやりやすかったです。「もっとここはこうした方が…」というように、色んな経歴を持った方々が意見やアイディアを出し合える環境がとても建設的で、その中で生まれる一種の「化学反応」がとても面白かったです!

 

吉野: 私は経験豊富な「エラい」演出家でも「デキる」演出家でもないので、トップダウンにつくるのではなく、皆の力を結集する方向を探りたいなと思っています。《フィガロ》はその案配にだいぶ苦戦して、藤巻さんに何度も助けられた思い出があります(笑)が、2回の公演を経て徐々にはまぷろらしい制作や稽古のプロセスが確立されてきたように思います。

 

《愛の妙薬》稽古風景。左から吉野良祐(演出)、藤巻希美彦、吉田結衣、葛原敦嘉(妙薬の精)(撮影:奥山茂亮)

安田: 吉野くんははまぷろの演出家兼緩衝材ですね。立ち稽古を思い返すと、吉田さんはいつも面白いアイディアを持って来てくださっていました。溢れ出るアイディアがどこから沸くのか気になります!

 

吉田: 私の場合はとりあえず、大量の数のオペラ公演を観ます。独創的且つ新たな見解を生み出すには、先行研究が肝になると思うんです。新しいと思っていた解釈、アイディアも実は過去に上演済みだったことはよくありますし、今までの偉大な先人達はどのような解釈で歌い演じ継いできたのかを知るのは、演じる上でも多くのヒントを与えてくれます。

 

吉野: ものすごい量のインプットなんだろうな、ということは普段の稽古で感じます。 加えて、楽譜の研究もとても熱心で、アディーナの音楽的な解釈に関する論点を30個くらい送り付けるという無茶ぶりをしたら、翌週にはすべてに解答を用意してきてくれた、ということもありました。ファミレスで3時間楽譜を広げて答え合わせをしたりしましたねぇ…。

 

吉田: ええ、良い思い出です(笑) それから、作曲家にとって音楽をつける第一の根拠はその台本作家が作った「テクスト」なので、声楽家はテクストとそれに依拠して出来上がった音楽をいかに読み込んで自分のものにするのか、それが最優先事項だと考えています。

 

安田: 音楽とテクストをきちんと読み解くという軸はしっかり持ちつつ、先人の取り組みをきちんと参考にする、というのが吉田さんの役作りに対するスタンスなのですね。

 

撮影:奥山茂亮

吉野: 今回のドラマツルグによる読み替え提案は、時代や場所の設定こそ変えるけれども、音楽とテクストはより活かされるという絶妙なものだと思って演出をしていました。 アディーナのキャラクターづくりは苦労した点もあったかと思いますが、吉田さんの役作りのスタンスが最後にはうまく着地したんじゃないかと思います。

 

吉田: 今回の演出におけるアディーナは老舗ホテルの支配人という、今までにない設定でした。年齢設定も20代後半とかなり落ち着いた大人のイメージで作られていました。従来のアディーナですと、かなり若い年齢(10代)設定で演じられることが多いんですよね。
今回のアディーナでは主としての男性的な強さを持ち、人に弱さを見せるのが苦手な完璧主義的な面がありあすが、またそれ故に葛藤も抱えていて、本当は温かい心の持ち主であるということを強調したいと思っていました。ネモリーノにつれなくしていながらも自分でも気づかずに「ネモリーノ、ネモリーノ」と言っているところが可愛いですよね。

左:鷹野景輔(ネモリーノ)、右:吉田結衣(アディーナ)(撮影:田中卓郎)

安田: アディーナにとってネモリーノはどんな存在ですか?

 

吉田: きっと空気のような存在だったと思います。ずっと一緒に過ごしすぎていて、あまりに近くにいたから「好き」という感情になれなかった。自分の気持ちに気付くのはドゥルカマーラとの二重唱。その後のアディーナのアリアでようやくネモリーノに愛を伝えます。
音楽的に見ても、アディーナとネモリーノがまったく別のことをしゃべっているのに同じ旋律をなぞらせる箇所がいくつもあります。本当に心の底からネモリーノを拒絶しているならこんなつくりにはしないと思うんですよね。心のどっかでアディーナとネモリーノはいつも繋がってる、そう思いながら稽古を重ねてきました。

 

吉野: まさしく、アディーナとドゥルカマーラの二重唱が今回の演出の要のひとつです。この二重唱でアディーナとドゥルカマーラはネモリーノの愛情の価値に気付くわけですね。

 

「妙薬の精」の試み

安田: 今回のドラマツルグの読み替えプランでは、アディーナとドゥルカマーラの二重唱を構成上の起点にして「妙薬の精」という2人にしか見えない黙役を設定するという試みが行われました。「妙薬の精」という新キャラクターについて、皆さんいかがでしたか?

 

撮影:奥山茂亮

藤巻: 妙薬の精さんは、どの立場においてもその色に染まってくれるというか、シンパシーを持ってそこに居てくれてる気がしました。ドゥルカマーラが並べ立てる100個の嘘があるとしても、僕はその中に人の心に軽く刺さるような真実が、片手で数える程ですけれど、きっとあると思っています。それを精さんも分かってくれているんですよね。で、心の動きに反応してくれる。
言うなれば、95本の嘘の矢と5本の真実の矢を僕が人々に向けて一斉に放って、95本の嘘の矢はあちらこちらに外れてしまうんですけど、ちゃんと真実の5本の矢を掴み取って皆さんの胸に刺しに行ってくれるみたいな。精さんのことを誰もが見れる訳ではないのに、精さんには誰も彼も、何もかもが見えてる。
…と、小難しく言うとなんか精神的過ぎてアレですけど、好きな子に告白するときに物陰で心底応援して、手に汗握って見守ってくれるマブダチみたいな。

 

吉野: 矢を刺しに行くという喩えは面白いですね。妙薬の精は観客のまなざしや好奇心の代弁者でもあるので、意識的に客席とのやり取りを取り入れてもらうようにしていました。

 

撮影:田中卓郎

安田: アディーナから見て、どうでしたか?

 

吉田: 妙薬の精はアディーナとドゥルカマーラにしか見ることのできない不思議な存在ですが、アディーナにとってはなんだか気心の知れた仲で、頼りになる、姉弟のような関係です。
精の存在はこの作品によい意味でスパイスを効かせてくれていたと思います。精が見える2人と精が絡む2幕のアディーナ・ドゥルカマーラ二重唱などは、特に作り込んだシーンのひとつです。

 

「オペラ・エクスプレス」劇評について

安田: オペラ・エクスプレスさんが本公演のレポートを掲載してくださいました。もうお読みになりましたか?

撮影:田中卓郎

吉野: 僕は真っ先に読みましたよ(笑) 今回の読み替え演出について丁寧に言及してくださっていて、受け取り手のプロともいえる批評家の方の目にこの公演がどう映ったのか…ドキドキしながら読みました。

 

吉田:  まだ始動して日が浅い団体ですがこのように紹介してくださって大変ありがたいです。私としてももっと努力しなければ…と身の引き締まる思いです。

 

藤巻: そうですね。本当に有難いことです。吉野さんの言うように受け取り手のプロ、キャッチャーである批評家の方に我々はどんな球種を投げたのか。…炎のストレート?七色変化球? 暴投ではなかったようでホッとしています(苦笑)

「妙薬の精」が指し示すものは―はまぷろGiocoso 2018年公演「愛の妙薬」

 

安田: それでは最後にひとことお願いします。

吉田: はまぷろはプロアマ、学生社会人の垣根を越えた幅広い層で構成されております。今この記事を読んでるアナタ!も次は演奏者として参加してみてはいかがでしょうか?

 

藤巻: ご来場下さるお客様、参加される皆様には、是非その「熱」に触れて頂けたらと思います。観る、聴くだけではない、形はないけれど触れられるようなもの、体感型のエンターテイメントがはまぷろにはあります。皆様、今後とも応援よろしくお願い致します。

 

吉野・安田: ありがとうございました。